「ああ、赤坂さん。僕自殺したんだよ」
「見ればわかる」








赤坂さんと幽霊くん









「そうだよね、目の前に僕の死体あるもんね」
「あるもんねってああ、あるさ、直視さ、頭から血ぃ流して白眼向いて死んでるお前がばっちりこの目に映っているさ」
「ああ、どうせ死ぬならもっと綺麗に死にたかったな。誤ったよ」
「いや、死に方以前に色々誤ってるよお前! そんなに血ぃだらだら流して普通に話してる幽霊なんて初めてだよ!」
「あ、幽体の僕も血流してるんだ。やだなあもう。……これでいいかな、はい返す」
「返すじゃねえよ! 何勝手に人の鞄漁って人のハンカチで血拭いてるんだよ、しかもハンカチ血みどろだし!」
「ああ、幽体でもそうなるんだね、すごいなあ」
「すごいじゃねえよ、感心するなよ! ああ、生まれてはじめての現実逃避とやらをしそう。つか気絶したいや」
「そして死体の僕と横に並んで仲良くおねんね?」
「やっぱり意地でも起きてるわ!」
「赤坂さんらしいね」
「てかああ、そうだ、救急車と警察呼ばなきゃ……あ、あの、大至急救急車お願いします。今ここに学校の屋上から飛び降りた人がいます。死んでる感じがビシビシしますが念のため来て下さい」
「僕ももう死んでる感じがビシビシするよ」
「もうしゃべるなお前」
「せっかくしゃべれる相手がいるのになんで黙らないといけないの? それに幽霊と話せる機会なんてそうそうないよ、みんなに自慢しな」
「自慢しても頭のおかしいやつだと思われて終わりだ!」
「ああ、そうか、そうだね、可哀想な子として見られるんだね、いいね、悲劇のヒロイン」
「……そんな図太い神経してるお前がなぜ自殺したのか理解できないんだけど」
「ああ、そうそう、それ言いたかったんだよね。一応遺書も書いてきてるんだけどさ、聞きたい?」
「いや、全然、まったく、これっぽっちも」
「僕の母親血がつながってないんだけどさ」
「お前本当自分勝手だし人の話も聞かないのな! 聞きたくねえって言ってんだろ! この金縛りときやがれ! 今さっき幽霊になったばかりのくせに何でそんな順応性があるんだよお前!」
「意外と簡単にできるんだよね、超能力者になった気分。そう言えば写真に霊って写るって言うけど、テレビとかあるにはあるけどあんまり聞かないよね。はっきり映ってる映像ってあるのかな。僕試してみようかな」
「ああ、試せ好きなだけ試して来い! 私はその間に帰る!」
「あ、じゃあ駄目だ。それはまた今度にしよう。でね、その母がなんだけど」
「ほんっとすげえ神経してんだけどこいつ! 本当に幽霊かも怪しいぐらい存在感が濃いんだけど!」
「ちょっとヒステリー気味のうざい女でさ、それが子供産んでからエスカレート、育児ノイローゼになってね」
「無視かお前!」
「僕に物投げてくるし、いきなり殴ってくるし、夜中に奇声発するし、いい加減僕もね、精神的に参っていたわけですよ」
「あんたがずうずうしいのってそういう環境で育ったから?」
「ある日、灰皿投げられて僕の額から血が出てきて、ついうっかり「黙れくそアマ、うぜえんだよ!」って言っちゃったら父さんに「お前は心がないのか!」って怒鳴られてね。理不尽すぎてもう腹も立たなくてさ。被害者がなんで加害者に優しくしなくちゃいけないんだろうね?」
「訊ねられても私どうしようもないんだけど。帰っていい? って痛っ! なんか足痛!何した! お前何した!」
「ノイローゼだから仕方ないのはわかるよ、それはわかるけどさ。ああいう状態は家族が協力するのが一番なのはわかってるよ。だから家事も育児も僕が全部やっているとも。あの女ただ泣いてるだけだから。父さんは何もしないし」
「お前本当腹立たしいよ! 話は可哀想だけど腹立たしいよ!」
「で、決定的なのが昨日の晩なんだよ。あの女、僕のベッドにもぐりこんで、服の中に手を入れてきてさ、「吾郎さん……」ってうわ言のように言うんだよ。吾郎は親父だっての! あんまりのおぞましさに僕は彼女を突き倒してしまってね。そしたらまた泣くんだよ。「吾郎さん、私のこと嫌いになったのね……」って」
「認知症に近くない? それ」
「病院連れて行こうにも父さんが嫌がるし。身内に精神病患者がいるのを公にしたくなかったみたいだね。本当どうかしてるよあの人」
「お前の人の悪さはお父さんの遺伝?」
「あんまりわんわん泣くんで、父さんが気づいちゃってさ、僕の部屋に来て彼女を僕を見比べるとこう言ったんだ。「お前母さんを誘惑したのか!」」
「やっぱお父さんの遺伝か」
「僕は必死にこんなおかしい年増女好きじゃないって言ったんだけど納得しなくて。実の親にすら信用してもらえないと世の中どうでもよく思えちゃってさ、飛び降りてしまったわけですよ。衝動的な自殺だね。あ、いや、遺書書いてるからそうでもないのかな? 何であれ、飛び降りて頭が冷えた今となっては後悔してるよ」
「はい、話終わった帰ろう帰せ足を離せええええ!」
「まあまあ、救急車が来るまでゆっくりしてようよ。どうせ第一発見者としてついていかなきゃいけないんだから」
「何で私今日ここきちゃったんだろう、思い直せ数時間前の自分」
「過去には戻れないから無理だよ。開き直ったほうがいいよ、僕のように」
「お前は開き直りすぎだ! 自分の死体目の前にしてなんでそんな冷静でいられんの? おかしい、お前おかしい!」
「ああ、段々このグロさにも慣れてきたね」
「私はもっと怖かったっていうか、気絶したくなった。人間の身体は少女漫画見たくすぐ気絶できるようになってないから無理だったけど」
「ああ、そんなことしたら僕と仲良くおねんね」
「本当、人間図太くできててよかった!」
「そうだね。あ、救急車きたみたい。良かったね、赤坂さん、僕と二人っきりじゃなくなったよ」
「良かった、本当に。でも警察とか色々面倒……あれ、あんた身体透けてきてるけど」
「ああ、時間なのかも。仕方ないね、うん、じゃあね、赤坂さん」
「え、ちょっ! ……消えちゃった」












「それで、なんであんたがいるのかな」
「いや、なんか死んでなかったみたいで」
「死ね!」






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