掃除なんか歩ける道さえあればいいんじゃない? と言ういいかげんな母のおかげで荒れ放題の庭をそろそろ何とかしなければと思い、とりあえず一番でかい雑草を引っこ抜いたら、小人を釣ってしまった。
「…………」
雑草の根っこにプランプランぶら下がっているその小人を、じーっと見つめてみる。見た感じ男のようだ。ふいに小人が泥まみれの頬を赤らめて顔を背けた。
「俺様に惚れるなよ」
「惚れねえよ」
即座に否定すると、ムッとしたのか、小さな唇を尖らせた。
「何でだ? 俺様、かっこいいだろ」
……どこが?
悪いが、こんなミニマムサイズの変な生物を可愛いなあとは思うけれども、かっこいいとは思わない。顔立ちは整っているが、やはり子供にしか見えない。いやいや、そもそもこんな存在いるはずない。
たぶん疲れているのだろうと思って頭をブンブン振ってみた。それを見ていた小人はおもむろに口を開いた。
「お前、頭大丈夫か?」
幻覚のクセに腹立たしいので埋めなおした。
「草刈機を買いませんか、お母様」
居間に戻ってからそう提案すると、母は笑顔で首を振った。
「別に庭がボーボーでもいいじゃない。困るわけでもないし」
困らないけれど、普通庭って野菜植えたり花を植えたり芝生を植えたりして和む場所なんじゃないだろうか。有効利用をしないなんてなんてもったいない。だったら庭を造る必要ないじゃないか。
「困んないけど、あの無法地帯は視覚の暴力だと思う」
「そんなことないわよー。母さん見ないようにしてるもの」
それは視覚の暴力だからじゃないのか?
思っても口に出さないのは、長年この家で育った上での経験上の最善の選択だからだ。
とりあえず、自分の貯金で殺虫剤と草刈機を買おうと思う。早急に。
あれって、虫でいいんだろうか。
朝、「ぐえっ」と気持ち悪い声で目が覚めた。最悪な目覚めだ。その声に聞き覚えがあるからこそ、最悪だ。
身体を起こすと、枕のところに昨日見つけた小人がいた。残念なことに泥だらけのままだった。だから残念なことに私の枕は可哀想なことになっていた。
「苦しいじゃないか!」
私が寝返りを打ったときにつぶしたんだろうことは想像できるが、勝手に人の家に不法侵入して添い寝しているこいつが悪い。
その物体の襟元を摘み上げて窓へ寄っていくと小人はバタバタと暴れだした。面倒だな、猫なら首根っこを持てば大人しくなるのに。
「やめろ、ここ二階だぞ! 昨日よじ登ってくるの大変だったんだぞ!」
「ああ、よじ登ってきたんだ。お疲れ。じゃあ落としても平気だろ」
「死ぬ! 死ぬからよせ!」
「大丈夫大丈夫。ノミだって高いところから落ちても平気だろ?」
「俺様とノミを同類に見るんじゃねえ!」
「わかったよ、ノミもどき」
「もどきじゃねええ!」
しくしく泣き出したので仕方なく手近な机に降ろしてやった。机が涙で汚れるものだから、ティッシュを差し出してやったらそれに包まるようにして顔を拭ってた。
「ひどい、あんまりだぞ」
「あーはいはい。で、何か御用で?」
「俺様の伴侶にしてやるんだぞ」
寝ぼけたことをほざくので埋めなおしてやった。
小さなお庭の住民さん
Copyright(c)2005-沢野いずみ, Inc. All rights reserved.
