「人という字は支えあっていると言いながらも明らかに片方に寄りかかっていると思うのだが、この見解について君はどう思う?」
「うん、とりあえず人を早朝に起こして第一声がそれとはお前も大概ふざけてるよな。こんな最悪なおはようの挨拶は初めてだ」
「初体験万歳だ。人間何事も経験が大切だ。それに勝るものはない。で、君の意見は?」
「俺の意見としてはお前は何て図々しい上に甚だしい存在なんだろうということしかないけど、とりあえず人という字に関してはお前と同意見だよ」
「そうか。やはり僕の考えは間違っていない。大体支えあうとか無理なんだ、人は一人一人重さが違うから寄りかかりあえばどちらかに傾くんだ」
「お前は確かに正論らしいことを言うけど、その考え方はネガティブだよな」
「しょうがないだろう、世の中が不公平なんだ。学歴で社員を選ぶ会社なんか滅んでしまえ。優等生と劣等生という言葉も滅んでしまえ。兄弟を見比べる親も認めない」
「ああ、お前が何でここに来たのかわかったよ。あの超秀才で将来有望、容姿端麗で人柄も最高な、君の弟との差異を明らかに告げられたんだね、親に」
「あいつらなんか親じゃない。いつだって人を見比べる。人類みな平等とか言いながらなんだこの扱いの差は。大体弟にしても完璧すぎる。むしろそれが胡散臭い。天は二物をも与えずなんて嘘っぱちだ、腹立たしい。与えすぎるほどに与えているじゃないか二物どころの話じゃないほどに。僕だって別に悪いわけではない。中の上だ。むしろ褒めるべきだ。だが、比べる対象が悪すぎる。どう頑張れば三ヶ国語もペラペラな人間に追いつけると思っている。しかも今は四ヶ国語目に挑戦中だ。どこが中学生だ。もう飛び級制度でも受けて博士号でも取得すればいいんだ。中学生で気象予報士の資格持ってるなんてどういうことだ。認めない。僕はあれが一般人としてまかり通るなんて認めない」
「もう一般人として呼べるレベルではなくなってきているのは俺も同意してやる。親に比べられるのにも同情してやる。だが早朝四時に人の家に押しかけて唐突に人という字について語り、更に弟との差別について語り、俺にどうしろって言うんだ。嫌がらせか? 嫌がらせなんだな? 俺が今日一時に帰ってきて三時間しか寝ていないことも承知の上での行為なんだから、嫌がらせに決まってるよな? 大体俺にはお前のコンプレックスを語られても慰めてやるほどの心の広さは持っていない。だが、喧嘩を買う覚悟ならある。土下座しろとまでは言わないから、殴られたくなければ俺に謝れ」
「殴られたくなければ、と言うのは脅し文句に入るぞ。恐喝罪に問われるぞ。いいのか? お前はそれでいいのか? 悪いが僕はどんな脅しにも屈しない」
「ああ、お前が情状酌量の余地なしの人間であることがよくわかったよ。とりあえず歯を食いしばれ」







午前四時の喧騒







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