今日からよろしく御兄妹! 23
プルルルル……
「はい、もしもし」
「あ、俺だけど」
ガチャン、ツー…ツー…
プルルルル……
「はい、もしもし」
「俺だけどいきなり切るのはないよね!」
「振り込め詐欺は間に合っています」
ガチャン、ツー…ツー…
プルルルル……
「はい、もしもし」
「俺だけど振り込め詐欺は間に合ってるってどういうこと? もう詐欺に遭ったの?」
「文脈やその前のやり取りからご判断くださいお兄様」
ガチャン、ツー…ツー…
プルルルル……
「はい、もしもし」
「孝彦です。切らないで下さいお願いだから。自分だとわかっているのに切られるって結構切ないものあるんだよこれ」
「兄さんだなんてわからなかったもの」
「いや、さっき最後にはっきり『お兄様』って言ったよね!?」
「過去のことは忘れました」
「過去ってほんの一、二分前なんだけど! 今現在言ってもいいくらいの時間なんですけど!」
「一秒でも過去だから」
「屁理屈!」
「用がないならかけないで下さいさようなら」
ガチャン、ツー…ツー…
プルルルル……
「はい、もしもし」
「もしもし、佐之助です。お久しぶりですね、紀子ちゃん」
「ああ、お久しぶりです、佐之助さん」
「実はですね、あなたのお兄さんの孝彦くんが私の家に遊びに来ているんですが、どうもすぐさま帰りたい様子なのでこっそりお財布を隠して帰れなくしたんです。私の家だと自宅に帰るには電車に乗らないといけないので。でもあきらめずあなたに迎えに来てもらおうと電話していたようなんですよ。まったく、往生際が悪いですねえ」
「悪いですねえじゃねえよ、っつか失くしたと思って焦ってたのに、結局お前が盗ったのか! 返せ性悪!」
「口が悪いですね。あなた就職しても一生平社員だと思いますよ」
「平上等だね。さっさと返せ。そして俺は帰る」
「泊まっていってください。ごはんもちゃんと出しますよ」
「ふざけんなよ! 大体ここにいるの俺の意思じゃねえし! 無理やり拉致ったんだろうが!」
「人聞きが悪いです」
「じゃあ他に何て言うんだよ」
「連行」
「余計悪いわ! 俺は犯罪者か!」
「性犯罪者じゃないですか」
「違げえよ! それお前だろ! 俺健全だから! 女の人の裸見て固まっちゃう純情ボーイだから!」
「ああ……」
「何だその哀れみの眼差し。自分が進んでるからって調子に乗りやがって!」
「事実ですから」
「腹立つー! やっぱ無理こんなのと一日一緒にいられない! 妹さん、迎えに来て! いや、ツーツーじゃなくて……ってあれ電話切られてる!?」
「捨てられましたね、可哀想に。あははは」
「その笑顔が気持ち悪いんだよ! 腹立たしいんだよ! もういい俺今日野宿するから探すなよ!」
「知っていますか、探すなって言う人って本当は探してほしんですって」
「お前に探してほしいんじゃねえよアホー! もうやだ助けて俺のヒーロー妹さんー!」
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