今日からよろしく御兄妹! 01





「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「なんかしゃべれよ」
「そっちこそ」
「俺に何を言えと」
「自分は冷蔵庫に入るのが趣味の変態です」
「じゃあお前は、人が冷蔵庫に入ってるのに何も動じずただ静かに眺めてる変態だな」
「あんたに言われたくない」
「俺もお前に言われたくない」
「そもそも何か言い訳する出だろ、普通」
「普通はここで叫び声とかあげるんだけどな。かわいらしく「きゃー!」って」
「きゃー!」
「見事な棒読みありがとう」
「で、見知らぬ変態さんはここで何してるの?」
「いや、何かインパクトをつけたいと思って」
「ありすぎだね。台所に来たならせめてその辺の棚に隠れればいいのに」
「開けてくれるか分からないじゃないか」
「自分から飛び出ればいいじゃない」
「あ……」
「思いつかなかったんだ。ばーかばーか」
「なっ! お前これから一緒に暮らす兄に向かって!」
「は? 何言ってるの? 私に兄なんていません。母さんに隠し子がいなければ」
「今日から兄になるのよその人」
「……いつ帰って来たの母さん」
「あなた達が無言で見つめ合ってる間」
「だったらもっと早く出てこいや」
「突っ込むところはそこなのか、今日から妹」
「黙れ、自称兄」
「……」
「……」
「母さんはしゃべれ」
「あ、いいの?」
「当たり前。で、何でこいつが兄? 隠し子がいたなんて聞いてないけど?」
「隠し子じゃないもの。新しくなるお父さんの息子さんよ」
「あー……そうなの」
「さっきから思ってたけど、お前反応薄いな。低血圧? カルシウム足りてる?」
「低血圧なのは認める。カルシウムは足りてるはず。ただ、冷静なだけ」
「自分で冷静とか言ったよこの子」
「冷蔵庫に入ってたのに凍死しなかった男に言われたくない」
「何言ってるんだ。たった数分入ってただけでは死なないだろ」
「……つまり、私が帰ってくるの見計らってた訳だ」
「そういう事。あー、寒かった」
「いっそ一生は入ってろ」
「何押し込んでるんだよ。やめろよ、マジで寒いんだぞ」
「だったら初めから入んなよ」
「仲良くなったようで嬉しいわ」
「そんな事言えるあなたに天晴れだね」
「似てないな、お前とお袋さん」
「この人と住んでると、そうならなきゃやっていけない」
「あー……なるほど」
「とりあえず」
「ん?」
「今日からよろしく」
「こちらこそ」




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